変身シーンは何を背負っているのか──なのはとシンフォギア、削れるものと削れないもの

同じ「少女が変身して戦う話」でも、変身に託されたものが違った。歌が主題そのものになっているシンフォギアと、型を見せた後は簡略化できたなのは。新作で変身シーンが消えたことへの反発から辿った。


莉緒

莉緒

葉月

葉月

莉緒
莉緒
うん、来てる。「なのはの新作を見ていて、そういえばシンフォギアってどんな作品だったんだろうと思いました。どっちも少女が変身して戦う話だと思うんですが、同じような作品として見ていいんでしょうか。シンフォギアは名前しか知らないので、そこから教えてもらえると嬉しいです」だって。名前だけ知ってて中身知らないのって普通にあるよね、わかる。シンフォギアって正式には『戦姫絶唱シンフォギア』、2012年から全5期、各13話でやってたアニメだよ。まずそこ、葉月から話してみる?1
葉月
葉月
うん。制作はサテライトで、原作は上松範康さんと金子彰史さん、シリーズ構成も金子さんがやってる。認定特異災害『ノイズ』がヒトを襲って炭素の塊に変えちゃう近未来の東京が舞台で、立花響と小日向未来がリディアン音楽院に通うことになって話が動き出すんだよ。ただ『少女が変身して戦う話』で一括りにすると、たぶんこの後ズレてくる気がする。12
莉緒
莉緒
じゃあなのはの方も出しとくね。正式名称は『魔法少女リリカルなのは』、2004年10月から12月に全13話で放送された、魔法少女を主人公にした変身バトルもの。監督が新房昭之さん、脚本が都築真紀さん、キャラデザが奥田泰弘さん。シンフォギアの開始が2012年だから、なのはの方が8年近く先に始まってるんだよ。この順番、後でズレを説明するとき効いてくると思う。7
葉月
葉月
8年差、うん大事だと思う。あと世界観の土台も違ってて、なのはは呪文をデバイスへのコマンドとして扱ってて、魔法は魔力を消費する『超科学』的なものって位置づけなんだよ。ふわっとした魔法少女ものというより、システムとして組まれてる感じかな。8
莉緒
莉緒
シンフォギアの方も土台揃えとくね。あっちはシンフォギアシステムを身に纏った者だけがノイズに対して有効な攻撃手段を持つ、って世界観なんだよ。なのはの魔力消費の超科学と違って、シンフォギアは変身できるかどうかが対ノイズの武装を持てるかどうかそのものになってる。どっちも『システム』で理屈づけしてる作品だけど、システムが説明してるものが違うんだよね。2
葉月
葉月
時系列の方も出しとくね。シンフォギアは2012年の1期から始まって、そこから第5期『シンフォギアXV』が2019年の7月から9月まで、全5期×各13話で続いたシリーズなんだよ。監督は1期だけ伊藤達文さんで、2期からは小野勝巳さんに交代してる。なのはが2004年開始だから、始まりも終わりもなのはの方が先で、シンフォギアはその8年後くらいに始まって、なのはの1期が終わってからも長く続いたシリーズって位置関係になるね。1
莉緒
莉緒
時系列出たところで踏み込むけど、なのは1期の監督自身が『まさか魔法少女の名前で熱血バトルをやるとは思わなかった、その驚きを出したい』って語ってるんだよ。萌え芝居はあえて崩さずに、アクションで自分の味を出したって。シンフォギアは逆に『歌』が主題で、歌いながら戦うところが他の変身ものと一線を画す特徴になってる。つまり『少女が変身して戦う』でくくると、なのはは驚きの落差を見せてて、シンフォギアは歌そのものを軸にしてる、そもそも違うものを見せようとしてる作品なんだよ。45
葉月
葉月
その落差って、変身シーンの作り込み方にも出てるんだよね。GXのメインアニメーター式地幸喜さんは、クリスのイチイバル装着で独唱から足・背中・腕・頭って順にギアを纏ってく過程そのものに心を撃ち抜かれたって語ってて、劇場版Detonationでもバリアジャケットの壊れ方を細かく設定して、坂田理さんが『どんどん脱がしていくような感じ』って表現するくらい段階を作ってる。なのはは萌え芝居をあえて崩さずアクションで新房さんの味を出す方向だから、シンフォギアは過程を見せ場にして、なのはは落差を見せ場にしてるって差になる気がする。36
莉緒
莉緒
それでさっきの『変身シーンは最初の1回だけでいい』って否定的な声と、『クリスのイチイバル装着が最高峰』って好意的な声の差も説明つくんだよね。なのはは落差が見せ場だから型を一度見せれば十分で、以降簡略化されても成立する。シンフォギアは足・背中・腕・頭って毎回同じ手順を丁寧に踏むこと自体、バリアジャケットの壊れ方まで含めて過程が価値だから、省略したら成立しないバンクを作ってたんだよ。
葉月
葉月
そこ、ちょっと待って。それだと綺麗に説明つきすぎてない? なのはの新作でなのはやフェイトの変身が出なかったことについて『シリーズの長所を自ら消してる』って否定的な声があるんだよ。落差が見せ場で一度見せれば十分な型なら、出さなくても平気なはずじゃない? 変身シーンって型の披露だけじゃなくて、シリーズの顔そのものとして機能してた可能性がある気がする。
莉緒
莉緒
言われてみると、StrikerSのシャマルの変身バンクを歴代最高って言う人もいるんだよ。落差ネタなら1期で一度見せれば済むはずなのに、後になってからのシャマルのバンクが評価され続けてる。だから『落差が見せ場』はさっきの説明の半分でしかなくて、型そのものがシリーズの顔になってた部分も確かにあるんだよね。
葉月
葉月
だとしたら『落差か型か』で切り分けるより、両方に層があるって考えた方がしっくりくるかも。なのはは落差の層とシャマルみたいに型そのものが顔になる層が両方あって、シンフォギアも足・背中・腕・頭って毎回同じ手順を踏む型が心を掴む層と、XVの1話で初めて6人共闘・6人ユニゾンをやったみたいな一回性の場面が人を選ぶ層に分かれてる気がするんだよね。シリーズごとにその二層の比重が違うだけなんじゃないかな。
莉緒
莉緒
一回性の層、もう一個例あるよ。アクションディレクターの光田史亮さんが挙げてるのが1期13話、月の破片を壊すために響・翼・クリスが歌いながら飛び立つ場面。3人が希望に満ちた笑顔で歌う姿が、辛く苦しい戦いの最中だってことを忘れさせるくらいだって語ってるんだよ。XVの6人ユニゾンだけじゃなくて、1期から節目ごとにこの層が積まれてきてるってことだよね。3
葉月
葉月
1期13話からXVの6人ユニゾンまで通ってるのは、笑顔で歌うことと戦況の苦しさが同時に成立してるところだと思う。足・背中・腕・頭って同じ手順を踏む型があるから、その上に笑顔と絶望の落差が乗っても崩れないんだよね。なのはは型と落差がそれぞれ別に効く感じだったけど、シンフォギアは型があるからこそ一回性の場面が効く、って順番が逆な気がする。
莉緒
莉緒
じゃあ最初の『同じ少女変身バトルとして見ていいか』にも答え出せる。型と落差が別々に効くか、型があるから一回性が効くかって順番の違いこそが、一括りにできない理由だよ。なのはは2004年開始、魔力消費の超科学で驚きの落差を軸にしてて、シンフォギアは2012年開始、シンフォギアシステムで足・背中・腕・頭って型の積み重ねを軸にしてる。8年差があるのも、入口が似てるだけで狙ってるものが最初から別方向だったことの証拠だと思う。
葉月
葉月
入口の形だけ見て『どっちも少女が変身して戦う話』って括るのは、たぶん半分正解で半分外れなんだよね。新房さんが『魔法少女の名前で熱血バトルをやるとは思わなかった、その驚きを出したい』って言ってたのがなのはの狙いで、驚きの落差が軸。シンフォギアは足・背中・腕・頭って手順を毎回丁寧に踏むこと自体が心を掴む型になってて、狙ってるものが最初から別方向なんだよ。名前しか知らないところから始まったお便りだけど、この二層の違いに気づけたら、もう名前だけの状態じゃないと思う。5
莉緒
莉緒
半分正解で半分外れ、っていうのがちょうどいい答えだよ。同じ『変身して戦う』でも、なのはは驚きの落差、シンフォギアは足・背中・腕・頭の型そのものが効くっていう、狙ってる順番が逆な作品なんだよね。名前しか知らなかった人でも、次にどっちか見るなら、変身の瞬間だけじゃなくてその前の手順にも目を向けてみると、この差がそのまま見えてくるはずだよ。
葉月
葉月
優劣の話じゃなくて、どっちが軸かが逆なだけなんだよね。名前しか知らない状態から、型が先か落差が先かってところまで言葉にできたら、それはもう十分な答えになってると思う。あとは実際に画面で見て、どっちの手応えの方が自分に合うか確かめるだけじゃないかな。
莉緒
莉緒
ひとつ足すと、AXZでギア変身のモーションが良くなったって感じる人がいるのも、この型の層が積み重なってる例だと思う。なのはは落差の層が強いから最初の1回で足りるって声が出て、シンフォギアは型の層が強いから毎期ちょっとずつ良くなったことまで評価される。この軸で見れば、他の変身バトルもの見るときも同じ聞き方できそうだよ。
葉月
葉月
『どっちも変身して戦う話』って聞いたときの疑問には、これで一通り答えが出た気がする。型が先に効くか、落差が先に効くか、それを見るには変身の瞬間だけじゃなくて手順そのものに目をやること。AXZのモーションの変化まで評価されるのはその型の層が厚いからで、なのはの落差の層とは積まれ方が逆なんだよね。ただこれ、シンフォギアとなのはの二作で見えた軸だから、他の作品でも同じ二層に必ず分かれるとは言い切らないほうがいいかな。
莉緒
莉緒
言い切らない態度はそれでいいよ。でも今回の二作に限れば結論は出せる。XVは全5期の集大成として見られてる作品で、足・背中・腕・頭の型を4期分積み重ねた上に、初の6人共闘・6人ユニゾンって一回性が乗ってるんだよ。型が先か落差が先かって軸は、この二作を比較して確かめられた範囲の答えとして持っておけばいいと思う。
葉月
葉月
うん、その積み方で見ると式地さんがイチイバルの装着過程に撃ち抜かれたって語ってたのも、光田さんが1期13話の笑顔と苦境の対比を挙げてたのも、全部同じ型の層に乗ってた一回性だったんだよね。だからXVの6人ユニゾンだけ切り離して見るより、4期分積んだ上に乗ってるって順番で見るほうが腑に落ちる気がする。あとはなのはとシンフォギア、実際に画面で見てどっちの層に自分がぐっと来るか、確かめてみればいいんじゃないかな
莉緒
莉緒
匿名さん、正直まだ話せることは残ってるんだよね。今日は二作だけで型と落差の軸を見たけど、他のシリーズに当てたら層の積まれ方がまた違うかもしれないし、そこはまだ確かめてない。また画面で見て気づいたことあったら、聞かせてよ。
葉月
葉月
莉緒がもう匿名さんに声かけてくれたから、あたしからは一言だけ。この軸、最初のお便りの一文がなかったら気づけなかったやつだから、ありがたいなって思ってるよ。またどこかで気づいたことあったら聞かせてね。
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